MEV(最大抽出可能価値)とは?ブロックチェーンに潜む見えない税金
MEV(最大抽出可能価値)の概要
MEV(最大抽出可能価値)とは、ブロックに含まれるトランザクションを任意の順に操作・追加することで得られる最大の利益のことです。
MEVは、利用者から見た時に分かりにくいことから「見えない税金」と呼称されることもあります。
MEVは、ブロックチェーンが持つ透明性やパーミッションレスな性質によってもたらされている現象です。
MEVは、弊害と恩恵の両方の側面を持ちます。
特に、さまざまなDeFiをエコシステムに抱えるイーサリアムなどのブロックチェーンにおける主要な問題の1つとなっています。
MEV(最大抽出可能価値)を理解するための前提知識
MEVは、トランザクションがブロックに取り込まれるまでのプロセスによって発生する現象です。
そのため、MEVについて理解するには、トランザクションが処理されるまでのプロセスに対する知識が必要です。
これから、上記のプロセスから、MEVの仕組みやメカニズムを理解するために押さえたい基礎的な内容を以下のポイントから解説していきます。
- トランザクションが取り込まれるまで
- トランザクションが処理されるまでの速度
- MEVとトランザクション
MEVを理解するための前提について押さえていきましょう。
トランザクションが取り込まれるまで
トランザクションがブロックチェーンに取り込まれるまでには、いくつかのプロセスが存在します。
簡素にまとめると、以下のようなプロセスを通ります。
- トランザクションの発生
- トランザクションの待機場であるメモプールへ
- 複数のトランザクションがまとめてブロックに取り込まれる
- ブロックがブロックチェーンの一部になる
上記のようなプロセスを通すまでには、いくつかの作業・主体が必要です。
例えば、トランザクションがブロックにまとめられてブロックチェーンへ追加されるまでには、ネットワークで合意形成を行う必要があります。
上記のプロセスにおいて、PoS・PoWなどを活用して合意形成を行います。
また、上記のような作業を行う主体をバリデーターやマイナーと呼び、PoSではバリデーター・PoWではマイナーと呼ぶことが一般的です。
バリデーターやマイナーによってトランザクションはブロックにまとめられ、ブロックチェーンに追加され、時間が立つと確定的なものになります。
トランザクションが処理されるまでの速度
前述したプロセスで、トランザクションは最終的にブロックチェーンに記録されていきます。
しかし、トランザクションが処理されるまでの時間・速度というのは、一定ではありません。
1つのブロックに含められるデータというのは予め決まっており、ブロックの生成数も一定期間に一定数が生成されるようになっています。
そのため、特にブロックチェーンが混雑してくると、メモプールに大量のトランザクションが待機するといった現象が見られることも多いです。
上記のような仕様の上で、バリデーターやマイナーは高いガス代が支払われる・処理する価値の高いトランザクションを、優先的に処理を行っていきます。
これは、ブロックチェーンが混雑するとガス代が高くなる要因の1つです。
MEVとトランザクション
前述したトランザクションが取り込まれる速度という点において重要なのは、トランザクションは必ずしも発生順には処理されないということです。
つまり、バリデーターやマイナーは自身の経済的なインセンティブによって処理するトランザクションを選択できます。
逆に、あくまでインセンティブが期待しやすいというだけで、高いガス代が設定されているトランザクションを必ず優先的に処理するといったルールもありません。
MEVは、上記のメカニズムを利用するものです。
まだブロックに取り込まれておらず、MEVが期待できるトランザクションを検出して、トランザクションの順番などを操作することで、得られる利益がMEVです。
また、メモプールから発見した有利な情報を含むトランザクションを元に、フロントランニングやアービトラージが行われます。
ほとんどがサーチャーによって行われる
これまで解説した内容では、主にバリデーター・マイナーとMEVに焦点を当てていました。
しかし、実際は、その多くはサーチャーというMEVを行う専門の主体によって、MEVの機会が検出されています。
サーチャーは、MEVが期待できるトランザクションを発見すると、高いガス代を支払って競合する何らかのトランザクションよりも、早くトランザクションを通そうとします。
サーチャーは、MEVによって発生する利益を超えないギリギリの範囲でガス代を支払うことにより、より迅速にトランザクションを処理可能です。
MEV(最大抽出可能価値)の例
これから、MEVが行われている実際の例について、以下のポイントから解説していきます。
- フロントランニング、サンドウィッチ取引
- アービトラージによる利益
- 清算の迅速な実行
MEVの実例についてチェックしていきましょう。
フロントランニング、サンドウィッチ取引
もっとも代表的なMEVの弊害として挙げられがちなのが、フロントランニングやサンドウィッチ取引といったものです。
両者の詳細なメカニズムは若干異なりますが、概ね本質的な仕組みは同じです。
フロントランニングとは、予め知った注文情報を元に有利なレートで売買を行うことを指します。
最初に注文を出した主体にとっては不利なレートで取引させられることになるので、通常の金融市場において、フロントランニングは禁止されている行為です。
一方で、ブロックチェーンにおいては、メモプールの情報を調べることで、未確定のトランザクションを検出できます。
例えば、DEX(分散型取引所)で行われたレートに影響を与える大きな注文のトランザクションなどを、確定する前の段階で検出可能です。
MEVの機会を発見した主体が、元となるトランザクションと同じ内容で高いガス代を支払い迅速にトランザクションを通すことで、有利なレートで取引できます。
アービトラージ
アービトラージとは、取引所ごとに異なる価格を利用して利益を出す取引のことを指します。
DeFiの領域には、さまざまなDEXが存在しており、同じ仮想通貨であっても各DEXが提供している価格が微妙に異なることがあります。
このような機会を発見して、価格差を利用して利益を出すのがアービトラージです。
MEVの文脈では、アービトラージを行っているトランザクションを検出したり、または発生しそうな機会を発見します。
検出したトランザクションより、高いガス代を支払って模倣したトランザクションを先に確定させることで、利益を得られます。
清算の迅速な実行
DeFiにおいて、レンディングは最も開発が進んでいる分野の1つです。
どのレンディングでも、予め設定された担保率を下回ったときに、清算のメカニズムが実装されていることが一般的です。
清算を行った主体には手数料が支払われることが多く、そのインセンティブを期待してさまざまな参加者が清算をできるだけ早く行えるように競争します。
MEVを行う主体は、このような清算の機会をより早く検出・清算執行のトランザクションを確定させることで、報酬を得られます。
MEV(最大抽出可能価値)は必ずしも悪いことではない
これから、MEVが持つさまざまな影響について、以下のポイントから解説していきます。
- MEVは当然の現象
- MEVの良い側面
- MEVの悪い側面
MEVがブロックチェーンやエコシステムに対して与える影響についてチェックしていきましょう。
MEVは当然の現象
まず、前提として、MEVがどんな影響をもたらすとしても、当然の現象であるという視点は重要です。
多くのブロックチェーンとその上に構築されているプロトコルが、パーミッションレスな環境で機能しているのは、経済的なインセンティブが設定されているためです。
そのため、バリデーター・マイナー・サーチャーであれ、MEVを得ようとするモチベーションは当然の現象として存在します。
MEVの良い側面
MEVが持つ良い側面は、経済的に効率的・望ましい環境をより迅速に構築できる点です。
例えば、DEXにおいてアービトラージがより迅速に実行されれば、各DEXにおいて最適な価格が反映されることに繋がります。
また、レンディングにおいて迅速な清算が実行されるのは、プロトコルとしての安定性に繋がります。
清算がいつまでも実行されないと、担保以上に借金が膨れ上がってしまう可能性があり、レンディングプロトコルの全体としての安定性が担保できません。
そのため、MEVによってより効率的な環境や条件が構築されるという面が見られ、良い側面として挙げられます。
MEVの悪い側面
MEVは、悪い側面・負の側面も持つ存在です。
前述したフロントランニング・サンドウィッチ取引といったMEVは、利用者にとって不利な取引を強制させられることに繋がります。
また、MEVのプロセスにおいて、高いガス代を支払ったり、競合する存在よりも早くトランザクションを通そうとするため、混雑やガス代の高騰を生みます。
上記のような弊害を避けるために、さまざまなブロックチェーンやプロトコルがMEVやフロントランニングへの耐性を持つ仕組みを開発している状況です。
MEV(最大抽出可能価値)についてまとめ
この記事では、MEVについて解説しました。
MEVはブロックチェーンの仕組み上発生してしまう問題で、DeFiの登場によってより顕在化しました。
いくつかのプロジェクト・機関・プロトコルが問題に取り組みつつありますが、今後すぐに解決されるような問題ではありません。
今後も、ブロックチェーンが持つ主要な課題の1つとして注視していきたいと言えます。
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